2005年 10月 14日
映画「アメリカン・ビューティー」(2/2)
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(前回よりの続き)
圧巻はこれからだ。最後の運命の日、レスターが死ぬ晩になって、登場人物はみな自分たちが見失っていた大切な何かを見つける。その瞬間のレスターの表情の変化は本当にすばらしく、ケビン・スペイシーがアカデミー主演男優賞を受賞したのは当然だろう。私はレスターの表情と並んで、最後のリッキー君の表情がたまらなく好きだ。あの表情が映画のテーマを明確にしてくれる。アンジェラの憑き物が落ちたような表情もいい。いつも不安げにふてくされていたジェーンが、いつの間にか意思の強そうな顔になっているのもいい。ラストシーンにはほとんど台詞がなく、明示的な説明はまったくない。だからこの映画は、繰り返し見て、自分なりに余白を埋め、物語を再構築せねばならない。この映画を一回見ただけの人は、おそらくこの映画のすごさがまだわかってはいない。
最初から見返せば、ほとんどすべての設定、すべての展開が、ラストへ収斂するための準備であったことがわかる。バラの花の色でさえも! 登場人物一人一人がたいへん丁寧に造形されており、彼らの少しずつの変化は歩調を揃えてきっちりとラストで収束する。あらゆるカットが絵画のように美しく、セットにも小道具にも細心の注意が払われている。音楽は独創的でありながら、まったく違和感がない。映画全編を通じて、台詞にも、編集にも、一片の不足もなく、一片の冗長さもない。ケビン・スペイシーを筆頭に、役者たちの演技はみなアカデミー賞ものの抜群さである。このようにして本作品は、映画が描くテーマをそのまま映画の表現方法とすることに成功した、と思う。これによって至高の古典文学とも肩を並べた、と思う。
この世の中にはこんなに完璧な映画が存在し、こんなに完璧な映画を作り上げた人々が存在する。だから、この世界がじつは美であふれていることなんて、まったく疑いようがないではないか。
-hiraku-
付記:
ネット上に存在する、以下の三つのレビューはすばらしい。特に作家・佐藤亜紀氏による、「アンジェラ・ヘイズ」という名前がナボコフの小説「ロリータ」の中のドロレス(ロリータ)・ヘイズから来ているとの指摘はおもしろい。なるほど、もちろんそうであるべきだ。
● 壊れた世界の幸福な死――『アメリカン・ビューティ』 佐藤亜紀氏(作家)(大蟻食)
● アメリカン・ビューティ 佐藤哲也氏(作家)
● アメリカン・ビューティ 安達瑶(安達O)氏(作家) …文中、「レスリー」は「レスター」の誤りであろう。
Screenplay by Alan Ball
CAST
Lester Burnham : Kevin Spacey
Carolyn Burnham : Annette Bening
Jane Burnham : Thora Birch
Ricky Fitts : Wes Bentley
Angela Hayes : Mena Suvari
Col. Frank Fitts, USMC : Chris Cooper
Buddy Kane : Peter Gallagher
Barbara Fitts : Allison Janney
1999年・第72回アカデミー賞で作品、監督(サム・メンデス)、脚本(アラン・ボール)・主演男優(ケビン・スペイシー)、撮影(コンラッド・ホール)の主要5部門を受賞。
冒頭に掲げたリッキーの台詞は拙訳。原文はここやここから。
付記2: 記事に書ききれなかったことを皆さんとのコメントのやり取りの中で書いています。コメント欄が(1/2)と(2/2)の二つに分散してしまい、読みにくくて申し訳ないですが、両方ご覧ただけると幸いです。(Dec.2/05追記)
本ブログ内の関連エントリー:
● ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」(1/2)
● 映画「笑の大学」
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by hiraku_auster
| 2005-10-14 20:04
| 映画