2005年 10月 22日
映画「笑の大学」 |
「笑の大学」(2004・日本)脚本家・三谷幸喜の最高傑作と呼ばれる舞台喜劇を、役所広司と稲垣吾郎(SMAP)の二人の俳優を起用して映画化したもの。もとの舞台は完全に二人芝居だが、映画では他の役者も少しは登場する。それでもやはり、映画もほとんどは密室内での二人のやり取りだ。二人の緊迫した会話は、映画化されても抜群におもしろい。
とにかく、検閲官・向坂(さきさか)を演じる役所広司がすばらしい。怒りながら笑ったりとか、笑いながら怒ったりとか、彼はとことん忙しい。台詞のないときの動きもなんだかとってもヘンである。この役所広司が見られるだけで、じゅうぶんこの映画を見る価値があると思う。二人芝居に飽きないように演出にも撮影にもいろいろ工夫が凝らされていて、なかなか楽しめる。
しかし、映画の終わり方だけは私にはどうしても納得がいかない。――なぜ舞台版のあのすばらしいラストを星護監督は変更してしまったのか。三谷幸喜はどうして登場人物・椿一(つばき はじめ)のように断固として監督の変更要求と戦わなかったのか。
舞台版の終わり方はこうであった。喜劇の台本の検閲をめぐって検閲官・向坂と脚本家・椿は対立するが、次第に友情が芽生え、ラストで戦争へ旅立つ椿を向坂が見送る。感動のシーン。そこで最後に向坂が言う。君の脚本に~~を入れて欲しいのだ、と。シリアスな雰囲気が一気にひっくり返るお馬鹿な発言である。
ところが映画版では、真面目にそのまま見送ってしまう。最後にどう落とすのかわくわくしながら見ていたから拍子抜けしてしまった。この映画はシチュエーションコメディではなかったのか。そこに挿入される人情話はぜんぶパロディなはずで、ありきたりの人情話がひっくり返るからこそコメディなのである。考えてもみて欲しい、「お肉のため」とか「おみゃーさまは」とか、それだけを取り出してみたらおもしろくとも何ともない。しかしそんなとぼけた発言が、軽口を発しそうな状況とはまったく対極の、緊迫した場面で飛び出すからこそ、最高に可笑しいのである。この映画はずっとその連鎖でやってきた。だから人情話と見せかけておいて実は…という爆発的などんでん返しで物語を締めなければ、この映画の題材自体を否定してしまう。1
星護監督は、きっとシチュエーションコメディを作りたかったのではなく、シチュエーションコメディもあり、人情話もありの、笑って感動できる何でもありの映画を撮りたかったのだ。結果、ずいぶんとピンボケになってしまった。…ともかく理屈はどうあれ、私は単純に最後にも笑わせて欲しかったのである。ラストの改変は本当に悔やまれる。
また、稲垣吾郎は期待以上に良い演技を見せてくれるが、いかんせん顔が爽やかすぎる(贅沢な文句ではあるが)。やっぱり陰湿な雰囲気のブサイクな男が至高の芸術を作り上げるんじゃなきゃいけないよなぁ、と考えて、ああそうか、この話は「アマデウス」から構想が得られてるんだと気づいた2。あの映画も、モーツァルト役のトム・ハルスがアイドル顔の爽やかな青年だったら、少し興ざめだろう。
結局、私も、おそらくほとんどの三谷幸喜ファンが言うであろう意見をただ繰り返すことになる。つまり、映画もかなりおもしろいけど、舞台版のほうがもっといいから、もしこの映画を見て気に入ったら(あるいは気に入らなくても)ぜひ舞台版も見てください、と。3
フォローするわけじゃないけど、この映画の星護監督の演出はすばらしいと思う。これが映画デビュー作と聞くが、今後どんな映画を撮っていってくれるのか、たいへん楽しみだ。
-hiraku-
脚注:
1) これを書きながら、ジャッキー・チェンの映画「奇蹟 / ミラクル」を連想した。ジャッキー・チェンの映画の中では、私の一番お気に入りの作品。この映画は、嘘が嘘を呼ぶ典型的なドタバタコメディだが、人情味たっぷりで、劇中ではジャッキーが人情に訴えかける演説をぶったりする(そして聴衆の誰も理解しない、というオチ)。そして感動のラスト(いや本当に感動するすばらしいラストなのだ)、そのまま人情話で終わりかと思ったら、最後の最後にジャッキーの一言ですべてがひっくり返るのである。大爆笑するようなギャグではないが、ラストできちんとこの映画がコメディであったことを思い出させてくれて、嘘が嘘を呼んできた展開を幸せな気持ちで思い返すことができる、そんな見事なオチである。
2) 偶然か必然か、「アマデウス」の脚本家、ピーター・シェーファーもまたシチュエーションコメディの名手である。彼のコメディ代表作・「ブラック・コメディ」は脚本を読んだだけなので、ぜひ舞台を見てみたいと思っている作品だ。劇団四季が好んで公演する「エクウス」は、「アマデウス」と同じくシリアス劇であるが、密室劇という点で上記3作品は共通している。 ⇒「アマデウス」と「ブラック・コメディ」の脚本は劇書房から、「エクウス」はテアトロ出版から、それぞれ出版されていたが、「アマデウス」以外は絶版になってしまったようである。
3) 舞台版のDVDはPARCO劇場のオンラインショップで手に入る模様。
原作・脚本 : 三谷幸喜
出演
向坂睦男 : 役所広司
椿一 : 稲垣吾郎
本ブログの関連エントリー:
● 映画「アメリカン・ビューティー」:シチュエーションコメディつながり。
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by hiraku_auster | 2005-10-22 01:50 | 映画
