2006年 07月 09日
映画「ミリオンダラー・ベイビー」
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映画「ミリオンダラー・ベイビー」(Million Dollar Baby, 2004・米国)
モーガン・フリーマン扮するスクラップがこの映画のナレーションを務めるのは、彼には語らねばならない物語があるからである。物語とは、人を生かすものであるし、自分の生の意味を確認するものでもある。だからスクラップはどうしても、この物語を語らねばならなかった。その事実が映画を締めくくる最後の一節で明らかにされるとき、映画のすべての要素はぴたりと調和し、一枚の美しい絵画を完成させる。緻密に構成された脚本の妙には感嘆するほかない。
悲惨な生活の中で死んだも同然だった31歳の女性マギー(ヒラリー・スワンク)は、ボクシングに命をかける決心をする。トレーナーとして彼女が探し出したフランキー(クリント・イーストウッド)もまた、過去に犯した罪の大きさに押しつぶされ、死んだも同然な男だ。しかしマギーの生への強い意志は、二人の男を死の世界から召還する。深夜マギーがトレーニングを行う、その傍らに闇の中から現れるスクラップとフランキーは、あたかも地獄から呼び戻された死者たちだ。そしてマギーはみごと二人とともに、チャンピオンベルトを賭けたリングへとたどりつく。光あふれるリングの描写は天国を思わせるほどに美しく、フランキーがレモンパイを食べるもうひとつの天国とあわせ、生の悦びの象徴としてこの映画に効果的に登場する。
ボクシングの映画かと思っていたら、後半は思わぬ方向へ物語が進み、先の読めない展開にまったく息つく暇がなかった。一見、映画の終わり方はとても重いが、デインジャーという若いボクサーの未来に期待させたりと、よくよく考えればこの映画は希望に満ちている。なにより最後のシーンに現れる、二本の注射器やレモンパイの店の情景は、フランキーの行き先を明確に示しており、マギーとフランキーのふたりは彼らなりにはすごく幸せだったのだ、と感じさせてくれる。だからスクラップはこの物語を、たぶん明るい物語として語っている。絶望や憎悪や哀しみの中でこそ輝いて見える純粋な希望の物語を、この物語が本当に必要な人物に対して、やさしく語りかけている。
-hiraku-
Directed by Clint Eastwood
Writing credits: F.X. Toole (stories), Paul Haggis (screenplay)
CAST
Clint Eastwood .... Frankie Dunn
Hilary Swank .... Maggie Fitzgerald
Morgan Freeman .... Eddie Scrap-Iron Dupris
2005年アカデミー賞で作品賞、監督賞(クリント・イーストウッド)、主演女優賞(ヒラリー・スワンク)、助演男優賞(モーガン・フリーマン)を受賞。
本ブログ内の他の映画評:
● 「アマデウス」
● 「アメリカン・ビューティー」
● 「ミュンヘン」と「戦場のピアニスト」
● 「ナルニア国物語第1章」
● 「笑の大学」
● 「ロリータ」
モーガン・フリーマン扮するスクラップがこの映画のナレーションを務めるのは、彼には語らねばならない物語があるからである。物語とは、人を生かすものであるし、自分の生の意味を確認するものでもある。だからスクラップはどうしても、この物語を語らねばならなかった。その事実が映画を締めくくる最後の一節で明らかにされるとき、映画のすべての要素はぴたりと調和し、一枚の美しい絵画を完成させる。緻密に構成された脚本の妙には感嘆するほかない。
悲惨な生活の中で死んだも同然だった31歳の女性マギー(ヒラリー・スワンク)は、ボクシングに命をかける決心をする。トレーナーとして彼女が探し出したフランキー(クリント・イーストウッド)もまた、過去に犯した罪の大きさに押しつぶされ、死んだも同然な男だ。しかしマギーの生への強い意志は、二人の男を死の世界から召還する。深夜マギーがトレーニングを行う、その傍らに闇の中から現れるスクラップとフランキーは、あたかも地獄から呼び戻された死者たちだ。そしてマギーはみごと二人とともに、チャンピオンベルトを賭けたリングへとたどりつく。光あふれるリングの描写は天国を思わせるほどに美しく、フランキーがレモンパイを食べるもうひとつの天国とあわせ、生の悦びの象徴としてこの映画に効果的に登場する。
ボクシングの映画かと思っていたら、後半は思わぬ方向へ物語が進み、先の読めない展開にまったく息つく暇がなかった。一見、映画の終わり方はとても重いが、デインジャーという若いボクサーの未来に期待させたりと、よくよく考えればこの映画は希望に満ちている。なにより最後のシーンに現れる、二本の注射器やレモンパイの店の情景は、フランキーの行き先を明確に示しており、マギーとフランキーのふたりは彼らなりにはすごく幸せだったのだ、と感じさせてくれる。だからスクラップはこの物語を、たぶん明るい物語として語っている。絶望や憎悪や哀しみの中でこそ輝いて見える純粋な希望の物語を、この物語が本当に必要な人物に対して、やさしく語りかけている。
-hiraku-
Directed by Clint Eastwood
Writing credits: F.X. Toole (stories), Paul Haggis (screenplay)
CAST
Clint Eastwood .... Frankie Dunn
Hilary Swank .... Maggie Fitzgerald
Morgan Freeman .... Eddie Scrap-Iron Dupris
2005年アカデミー賞で作品賞、監督賞(クリント・イーストウッド)、主演女優賞(ヒラリー・スワンク)、助演男優賞(モーガン・フリーマン)を受賞。
本ブログ内の他の映画評:
● 「アマデウス」
● 「アメリカン・ビューティー」
● 「ミュンヘン」と「戦場のピアニスト」
● 「ナルニア国物語第1章」
● 「笑の大学」
● 「ロリータ」
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by hiraku_auster
| 2006-07-09 11:36
| 映画